>>>役者vs松本陽一 対談企画<<<
第2回 劇団東京サギまがい・山田能龍


そもそも、お芝居を始めたきっかけなど、聞かせていただいてもいいですか?

山田

これねえ、そんなに人に話した事なんですけど、今日は話しましょう。
僕、元々、お笑いをやってたんです。サンミュージックっていう事務所にいまして。なんていうんでしょう、まあ、いろんな思いはあるんですけど、一言で言うと、ダメだったんです。才能が無かったんですよね。その時に、ダンカンさんがサンミュージックのブッチャブラザーズっていう僕らの先輩のおじさん芸人を使って芝居をしてたんですよ。たまたま、自分たちがネタ合わせしてた稽古場とダンカンさんが稽古してた稽古場が隣だったんです。
で、「一人足りない。背が高い感じのヤツが足りない」って話になって。ブッチャーさんがブヒブヒいいながら(笑)僕らの稽古場に来て「おい能龍、ちょっと来い」って呼ばれて行って。
もう、全く異空間なんですよ。「あ〜あ〜」とかって発声してる人がいたりして、一人で同じ台詞を練習してる人がいたりして。で、人が足りないからやれ、って言われてやって。まあ簡単なことだったんですけど。そしたらダンカンさんから、「じゃあ出ろ」って言われて。で、出て。また次に「お前、もう一回出ろ」って言われて。あ〜食いついちゃったのかな〜って思って(笑)。もう一回出たら、2回目はすごく良い役で。ダンカンさんの「生きない」っていう作品の舞台版だったんですけど。その時に、ちょっと芝居っておもしろいんじゃないかって思ったんです。けど、いやいや自分がやりたいのはお笑いだから、ってしばらく芝居からは離れていたんです。でも結局ダメで。もう、芸事やめようかな〜って。自分サッカーやってたんで、コーチとかやって飯食っていこうかなあ、と思ってて。
その時に、一通のDMが来て、サギまがいから。見に来てくれって。で、見に行って、面白かったんですけど、正直ね、「俺この中入ったらすぐ秀でるな」って思ったんです。
秀でるのは悪くないな(笑)、と。

だから、芝居をちゃんと始めたのは5年くらい前です。
それがきっかけですね。

じゃあ本当にたまたま、という感じなんですね。

山田

そうですね。

松本 じゃあ本当にたまたま、という感じなんですね。
山田 背の高い人を求めていたから。
松本 その時、背の低い人を求めていたとしたら
山田 ここにはいないかも。

元々突っ込みやられていたんですよね。
やっぱり小さい頃から、そういうポジションだったんですか?

山田

昔から、サッカーでも、劇団でも、芝居と関係ないところでも、いつもボランチ的な役割なんですよね。それが悩みでもあるし、最近はボチボチそれが自分でも長所ではあるかなと思ってるんですけど。そういう感じの性格ではありますね。

幼少の頃はサッカー一色だったんですか?

山田

そうですね。でもお笑いはずっと好きでしたね。

松本 サッカーでもボランチだったんですか。
山田 最終的にはボランチでしたね。

ご自分の劇団のサギまがいさんでは、最近は作・演出もなさってらっしゃいまして、松本さんも山田さんも役者と演出を経験してますよね。 そういう部分で、通じるものはあるんでしょうか。

松本 結構ね、似てるんですよ、劇団で置かれている状況とか。主宰がいて、2番目、みたいなところとか、若手に対する苦悩であるとか(笑)。話していると、被る所が多くて、気苦労も一緒(笑)。
山田 僕は、そういう意味で、芝居していないときの共通語はやっぱり、すごく多いと感じますね。酒の席でも。だけど今回は特に、役者として稽古に参加している気持ちが大きいですね。だから、劇団で演出やってるから、松本さんの今のダメだしがどうこう、とか、そういう思考は全くないですね。ただ単に役者としてだけ参加してる。また、そこに飢えてたんですよね。
松本 それは感じますね。役者モードの部分。
山田

この間も車で移動したりしてたんですけど、車の中では「最近の若いやつは」なんて。だいたいね、24から27が辞めやすい年代なんですよ、統計を取ったら。28歳超えたら安定期。20歳ぐらいで情熱持って始めて、2、3年でなんとかなると思ってるけど、それが現実どうにもならない、ああ情熱が途絶えてきた、ってなるのが24から27なんですよ。「オレ、他の道探すわ」とか言い始めるんです。
・・・みたいな事をよく、松本さんと話します(笑)。
だけど、稽古場に来たときは、演出家っていう思考や感覚は全くないです。

では、役どころについてお聞きしたいんですが、まず、松本さんが台本を書くときに、山田さんをどんな風に、どんなイメージで考えているんでしょうか。

松本

いろいろあるんですけどね。最初は結構シンプルだったんです。僕は、突っ込みに飢えてたんです、6Cにはいないので。能龍さんの素晴らしい突っ込みを披露してもらいたいって。でも、書き出した辺りでそれがボヤボヤしてきて。でね、思ったんです。突っ込みっていう部分に関しては、サギまがいさんで十分やっていらっしゃるわけで、確かに僕はそこを求めてたんですけど、それだけじゃ能龍さんもお客さんもおもしろくないんじゃないかな、と。そこから少し突っ込みの台詞を減らしたりして。最終的には稽古始めて、今は最初のイメージとは全然違うんですよ。
例えばね、佐久間さんはコメディが得意な方で、佐久間さんとお話した時に、どんな役が一番面白いかという話をして、佐久間さんがやったことが無い役、笑いの関係ないシリアス班かなって思ったんです。つまり、佐久間さんから笑いを取っちゃったんです。それと同じ回路で、能龍さんから突っ込みを取っちゃおう、と。もちろん、なくしたり封印したりはしないんですけれどね。
セールスマンの役なんですが、いろんな面を出したいという感じですね。小沢とか宇田川みたいなFWの人達に絶妙なパスを出してもらいたいっていう期待もありますし、そうじゃない部分もあったり。
最終的にこのセールスマンという役は結構話の中心になっていくんですが、ニヒルな感じで入ってきた割に、周りにどんどん巻き込まれていくような、そして実は、一番一生懸命D・ミリガンについて考えてた、みたいな感じになるのかなって。

演じていてどうでしょうか。

山田

言ってみればね、ここでもっといっぱい稼げるよ、みたいなところがたくさんあるんですよ。ここでもう一つやらせてもらえれば、驕りかもしれないですけどね、お客さんが確実に笑いますよ、っていう部分が。だけど、松本さんもおっしゃったように、そこは新しい自分じゃないから、あんまりこだわらないでね、自分の中でバランスを取りながら、まずは、違うところが太い芯になるんだろう、と思いながらやってますね。もっとやればベタに良くはなる、っていうところじゃないところで、今はまだボンヤリしてるんですけどね、どうやって形にしていこうかという部分で、粘ってます。

松本

そこもね、そんな話は一切していないんですけどね、疎通が出来てますよね。能龍さんの言う、あと一つっていう気分はすごく良く分かるんです。それを能龍さんはとりあえず封印されてて、稼げるところも稼がないところから始めてもらって。物語や特殊な世界観から入るってところを大事にしてもらって。
そこの太い芯ができたら、そこには執着しないで、もう少し稼いでいきますけどね。

山田

印象的なことが2回あったんです。
1回は、まさに今日なんですけど、「大丈夫です、もうしばらく辛抱してください」って言われたんです。

自分ではすごく不安なんですよ、サギまがいの稽古だと、ここで稼いで稼いで、ドル箱担いで(笑)みたいな感じなんです。でも、今回はドル箱は持たないでね、僕としてはちょとずつちょっとずつ前に出たい気分になるんですけど、そこは辛抱してほしいなって言われたのが印象的だったんです。
もう一つは、ネタばらしになるので詳しくは言えないんですが、僕の出の部分で、僕がおもしろいわけじゃないんですが、そこにいる小沢さんを見て、僕がポツリと何か言うと、何を言ってもおもしろくなるんですよ。自分の感覚でも100%笑いが取れるな、と。でもその時に松本さんが言ったんです。「ここで笑いを取る事によって大きな何かを失うなあ。やめましょう」って。それが稽古としていいなと思ったんです。新しいというか。自分の劇団だったら「取れる!」「取ろう!」って。「取れない!?」「やめよう!!」って(笑)。その二極化で進んでいく芝居ですから、うちの場合。「取れるのに、取らないぃ!?」みたいなところも斬新ですし。
お客さんの笑いは取れるけど、それで何かを失うからやめましょう、って言ったっていうのが、とても印象的でしたね。

松本さんはその事を覚えていらっしゃいますか?

松本

覚えてます。
そう、笑いを取らない稽古をしてるんですよね。


それは、お互い辛抱してる部分もあるんでしょうね。松本さんも見たい部分があると思うんですが。

松本

僕の完成形は、もうちょい取りで(笑)。場所によって取っていい部分とか、でも最終的にそれは空気感と言うかね、オイルのメンバーは空気感にお任せするところが大きいので、まずは太い芯を作っていれば、世界観がブレないので、あとはライブ感で拾ったり、拾わなかったり。

山田

もし僕が、本番になって、きちんと太い幹が出来ててもですよ、拾いすぎる傾向があったら、言ってほしいですね。「能龍さん、取ってたかもしれないけど、あれは困るよ」って。
体の反応でね、「取れる!!」「取ろう!!」ってなっちゃいますから(笑)。

松本 本番のダメだしは「その笑いはナシでいいです」っていう感じですね。贅沢ですよね。
山田 今の一連の話で、自分のハードルを上げてしまったなあ・・・
松本 結構オイルのインタビューとかいろんな書き込みって、自分たちのハードルをひたすら上げてる作業ですよね。もう一噛みも出来ない(笑)。

では最後になりますが、メッセージや意気込みをお願いします。

山田

まずやっぱり、大人な、スタイリッシュなコメディとはいえ、どこかでアツくはなりたいですね。最初の頃って小屋入りしたときに「うわ〜装置が立ったよ〜」って感動するんですけど、だんだん薄れていってしまうんですよね。それは良くないし、分かってるんですけど、慣れてしまったりして。だから皆で「行くぞ!」「オー!」みたいなことにはしたいですね。達者な人達が集まってるっていう触れ込みなわけじゃないですか。近隣を見渡したときに達者な人を集めよう、って。もう今の段階で、そうはならないって確信してますけど、商業演劇じゃないけど、上手な人達がやって、ホントにおすまししたような感じじゃなくて、小劇場の演劇でありたいというか。
なので、是非その上げに上げたこのハードル、どんなものなのか、是非見に来てください。
見に来る人は、思ったより低めにハードル設定してきてください(笑)


外見も声も雰囲気もとても素敵で、スポーツマンな山田さんですが、端々に見せるコミカルな感じが、山田さんの生まれ故郷・大阪を思わせる、サービス精神旺盛な紳士。
オイルでは、セールスマン役で登場します。今はまだ封印されている「絶妙の突っ込み芸」、楽しみにしています!

次回は、客演組では紅一点・
演劇系企画Funny*Flying*Fish主宰のMiSAKiさんにお越しいただきます。