思い出の
第13回公演「桐の林で二十日鼠を殺すには」
ザムザ阿佐ヶ谷

当時の6Cはゲネプロを2回やっていた。他の劇団では時間の都合上、「ゲネなし」というところも少なくないのに。
そしてこの時、何かを感じたのか、単に役者の気を引き締めるためか、松本陽一は「絶対にゲネは2回やる。もし2回やらなかったらこの作品は失敗する」と言った。
そして、ギリギリの時間の中、最終ゲネプロが始まった。
と、最初の場面転換の暗転の中誰かが何かにぶつかる大きな音がした。しかし、ゲネプロとは本番同様に進行していく事が大前提のため、何かアクシデントがあったとしても中断する事は、まずない。にも関わらず、久間氏の「ストップ」の声が響く。ただ事ではない雰囲気を感じるメンバー。
原因はセットの要とも言える“紗幕”を吊っていた紐が切れたということだった。この紗幕を上下させ場面転換をしているので、これが動かないと、本当にどうにもならない。
もし本番に同じ事が起きたら…という重苦しい空気の中「ゲネであの紐が弱いんだって気付けたんだから良かったじゃない。もしこれが本番だったら公演を中断する事になってたんだから。本番ではみんな気をつけられるでしょ」と言う声に誰もが前向きになった。
松本の「2回ゲネをやらなければ失敗するぞ」が本当になったのだ。


この劇場は、『桐の林…』を公演するためにあるのではないかと思われるほど雰囲気のマッチしたところで、下見に来た久間氏が一目惚れして決まったのだが、楽屋は不思議な場所にあった。
「楽屋どこですか?」「そこだよ」「いや、楽屋です。楽屋の場所はどこですか?」「だから、そこだよ。今立ってるところ」「え?!」
…というくらいの、不思議な空間だった。
部屋と言うより足場に近い。2階と思われる場所に“はしご”で登り、扉はなく、四隅のうち一辺は客席から丸見えで、はしごの設置されている一辺は気をつけていないと下に落ちかねない。広さは2.5畳程。別の場所にもう一つ楽屋があったが、そこはもっと狭いスペースの為、荷物置き場とされた。
始まる前の着替えは男女時間差で使おうと決めたにも関わらず、約一名女子の着替えている中「男だ女だなんて言っている場合じゃない。どんどん入っていくのだ」と入ってくる男子がいた。彼は確か、きちんと“男子楽屋”“女子楽屋”と分かれていた劇場でも「ちょっと相談が」とかなんとか言いながらノックもせずにドアを開けずんずん入ってきた。着替え中の女子がいるにも関わらずである。あまりにも普通に話を進めるので見えていなかったのかと思いきや、男子楽屋に帰って感想を述べていたそうな…。それでもなぜか憎めない彼なのである。
ま。今後の輝かしい未来のために名前は伏せますが…