2003年度号外第3号  <号外>     (3)
夢が丘高等学校新聞部発行
発行責任者(部長)  君島 勉 (2年6組)
2003年(平成15年)3月28日(金)発行     

 先々週よりお届けしている「劇団6番シード」(以下6C)特別レポート。第1回は次回公演『ペーパーカンパニー ゴーストカンパニー』(略称は『ペパカン』)についてのストーリー、第2回は6C10年の歴史、そして第3回の今回のテーマは「舞台セット」である。近年の6C舞台はそのセットのレベルの高さも評判らしい。その立役者、舞台美術の吉本伊織氏に密着取材を敢行した。6Cのセット、そして彼自身の魅力をあますところなくお届けしたい。

吉本伊織氏って?
 本紙記者の調べによると吉本伊織氏は舞台美術家を目指してそれまで勤めていた会社を退社、上京し、バイト先で出会った富沢謙二氏の紹介により6Cに入団したらしい。
吉本伊織氏近年
百年の夜が明ける朝(2001年11月上演)』より舞台美術を担当し、以降『FUN TRAPS(2002年4月上演)』『コンクリートダイブ(2002年12月上演)』の舞台美術を手がける。「今までで思い出深いセットは『コンクリートダイブ』。前作だから記憶に残っていて当たり前だけど、やっと舞台の<カンジ>がつかめた・・・かな。基本的に舞台美術家は演出家に伴走するものだと思っています」とは本人の弁。2002年夏には、長野県上田市でのアートイベント『海の向こうより山の向こう』実行委員長を務め、廃校となった木造小学校を使ってのイベントを成功に導いたという企画力と実行力を兼ね揃えている。長野の成功にとどまらず、今後も吉本伊織氏の創造への夢は広がっていく。

吉本氏に聞く!魅惑のセットができるまで
1、演出家と打ち合わせ
 今回は演出の松本陽一さんのイメージがぼやっとしているところから伴走しました。こういう状態だとなかなか具体的な作業がはじめられません。そんなときふたりで横浜にある新聞博物館に見学に行ったのですが、「こんな感じがいいねぇ」という言葉が演出家からでてくれてたのでホッとしました。
松本さんって頭の中に各場面っていうかシーンごとにイメージがあって、それにあわせてセットの全体像をつくっていくみたい。ボクは背後から伴走しながら「次は何処に行くんですかぁー?」って聞くみたいなもんです。

2、模型、平面図、イラスト
 フツーは多分、イラストを描いてから図面を描いて模型を作るんでしょうけど、ボクは模型から作ります。演出家に「あそこはだいたいどれくらい(の長さ)がいいですか?」ってメジャーを持って聞いて、それを元に模型を作ります。ボクはもともと立体物を作るのが好きなんですよ。で、模型で演出家からOKをもらったら平面図を作ります。
スタイリッシュなイラスト
その後、セットの色合いを見てもらうため色鉛筆とかアクリガッシュ(色材の一種)でイラストを描きます。このときはもうできている模型を見ながら絵を描きます。フツーは多分逆です。 イラスト、図面、模型の順番だと思います。他の美術家の仕事を知らないんですよ、ボク。

3、製作図面、材料買出し、製作(たたき)
 さて、演出家と決めたセットを作るためには、実際どうやって作るか、ここで現実とぶつかるわけです。演出家と決めたセッ
図面ができたらいよいよたたき!
トの寸法、質感、機能、そういったものを木材であるとか布であるとか鉄であるとか、素材特有の作り方があるわけでそれにあわせて製作図面を描きます。そしてそれに必要な材料をホームセンターとか材木屋さんで買い揃えます。で、実際に作製します。ここまでが下ごしらえみたいなもので、ここからがとても大変なんです。1mm切り間違えたり、木材が斜めに切れて直角が出せなかったり、そういった作業の失敗、それに加えて僕の設計ミスなど…様々な困難を打ち破り、完成に向かうわけです。 それにしても気を抜くとダメだね、何事も。でもあんまりしゃちほこばってもこれまたダメで「イイカンジ」がいいんだと思います。

4、たてこみ(セット設営)
 舞台のセットって幕が開いてからやっと完成!!なんだと思ってます。そういう意味で「たてこみ」って本当の大詰め。6番シードの場合、広いたたき場をもっているんですけど、それでもセットが大きすぎて全貌を見ることができない、部分部分でしか見れないんです。いつかはセットの全貌を見ることのできるたたき場が欲しいです!えっと、話しがそれました。「たてこみって」本当に大変。予定通りに行かないことばかりです。それを瞬時に修正していくわけなんですけど、例えば前回の『コンクリートダイブ』では鉄骨で組んだ足場の揺れが予想以上に大きかったというアクシデントがありました。それを舞台監督さんが瞬時に修正してくれたのです。

5、まとめ
舞台イメージ
 以上がボクの場合のセットができるまでです。紙面には書けなかったけど、演出家との打ち合わせからたてこみまでの行程のそれぞれの行間には制作サイド、照明、音響、舞台監督、劇場サイド、いろんな人との競走とか伴走とかがあるんです。で、やっとなんとかセットができます。
 えー、6番シードはノンストップで突っ走ります。ボクも必死こいて伴走していきます。

6C舞台美術:吉本伊織


 劇団6番シード10年の歴史となれば、そのセットの歴史も相当なもののはず。そのセットの中で生きてきた役者たちに忘れえぬセットの思い出について語ってもらった。
宇田川美樹
思い出に残ったセットというか、あのセットはある意味スゴかったと思うセット。『MUKAIYAMAトラブルマスターズ』の初演(1998年6月上演)で私と富沢君と広瀬君(当時のメンバー)で使った二階へつながる階段です。今なら正確にきれいで丈夫な階段が作れるのですが、当時は図面もなしに大まかに作っていたのでお客さんに見えないところは「新手のじゃんぐるじむ」のように入り組んでいました。もうつぎはぎだらけ。ものすごく丈夫でしたが、今なら2台は階段が作れそうなほど無駄に釘、木材を使っていました。何も知らないってすごい。勢いだけの23歳の私でした

附田泉
桐の林で二十日鼠を殺すには (2001年4月上演)』。桐の木を劇場に再現というか実際に3mもある生木を2本、劇場に持ち込みました。しかも天井に吊って、そのシーンになったら降りてくるという可動式。落ちてこないと思ってもひやひやものでした。

富沢謙二
第2回公演『星より昴く(1995年4月上演)』のラストシーンのセットです。これはやっているときは全然気がつかなかったのですが、あとからビデオをみてビックリ。長〜〜〜い暗転の後に変わったのは平台がひとつ増えただけという、なんともおそまつなセットでした。この時のことを考えると6番シード、間違いなく成長してますね。
甲斐堂家『百年の夜が
明ける朝』より


小沢和之

『桐の林で二十日鼠を殺すには』(2001年4月上演)の天宮家、劇場の雰囲気にマッチしたセットだったと思います。また『百年の夜が明ける朝』の甲斐堂家の屋敷は完成度の高いセットだったし、『コンクリートダイブ』の建築現場は莫大なるエネルギーを費やしたセットで思い出深いですね。


妹尾伸一
新人公演『紅い華のデ・ジャ・ヴュー(2001年9月上演)』のセット、忘れられないですね。同じ日に同じ場所で企画公演『ホテルニューパンプシャー206』と新人公演「紅い華』の2つをうったんじゃけど企画公演のほうはええセットじゃったな〜。
男 妹尾伸一
忘れられない『紅い華』
そのセットを隠すための白い布だけのセット、これが新人公演のセット。このうらみは忘れへんで〜、わしは。だから、今年の8月に上演予定の新人公演はわしは新人のために金でふちどったセットを作ることを約束するで、ポケットマネーで。

春日雄大
自分が今までで一番印象に残っているセットはパンプ(『ホテルニューパンプシャー206』)です。それ以外にも配役上での最も印象深い作品でもありますが、そのセットで立ち振る舞ったすべての登場人物、今でも瞼の奥にあります。ラブホテルを舞台にしたこの作品、一幕モノで終始このセットの中で話しが展開していったわけですが、どの場面でも役者によるものだけではない様々な色が出ていた気がします。どこかペンションを思わせるような木の匂いの漂う造り、それにライトがあたってとてもムーディーな感がありました。鉄骨を組んだりと大掛かりなものではありませんでしたが、シンプルな中にも様々な顔を持っていたセットが自分は一番好きです。

あづさ
『ホテルニューパンプシャー206』
この芝居、舞台はラブホテルの一室。ラブホテルというと「ピンク」とか「回るベット
『ホテルニューパンプシャー206』より
」とか、そんなイメージしか浮かんでこなかった私達。「よし。ラブホテルに行こう」と、演出家・松本陽一が提案。その頃、暇を持て余していた私と宇田川と3人で近所のラブホテルへ偵察に行くことに。しかしこの3人、明らかに怪しい。真昼から、しかも3人で、何故ラブホテルにいるのか・・・ロビーに入り、空き部屋を見ていたらホテルの管理人が出てきた。だって怪しいもん。3人って。「あのー、今度ラブホテルの特集を組むことになって、取材で来たんですけど、どうにか2人料金になりませんかねー。」嘘ぶっこいた。ずうずうしい。管理人さんは怪しみながらも割安にしてくれた。ありがたい。そして部屋へ。私達はおおはしゃぎ。結構お高めの部屋で、照明もなかなか素敵で、壁紙やベッドの装飾、扉の形、窓の雰囲気、飾り物など、隅から隅までデジカメに収めた。余った時間でカラオケも堪能した。大満足。本題の、「パンプシャー」のセット、完成してみれば私達が偵察にいったホテルとそっくりになった。まさに、ラブホテルだ。ここに住めるんじゃないかと思うほどラブホテルだ。なんだかどきどきしてしまうほどラブホテルだ。ど真ん中に堂々と置かれたセミダブルのベッドでぴょんぴょん跳ねてみた。気持ちいい・・・間接照明なんかもいい感じにイヤラシくて。とても気持ちよく芝居した。そしたら演出家は言った。「おい、芝居がセットに負けてるぞ」


 6C制作関係者により「大道具期間(稽古場だより2月参照)」というものが開催されるという情報が飛び込んできたのはまだ冬真っ盛りの2月だった。2週に渡り週末&平日に行われた 「大道具期間」。6Cでも初の試みというこの企画、激動の埃と汗の日々をここにお届けする。
 2月某日の午前9時、舞台美術の吉本伊織氏が集まった役者たちに作業を振り分け指示をしていく。いや、この日ばかりは彼らは役者ではない。入団年数、性別、役の大小にかかわらず彼ら全員が大道具スタッフなのだ。
全員一丸の図
新人栗原和滉氏をリーダーに通称「鉄骨班」は力自慢の男役者が配属され、次々に中二階の足場となる鉄骨を組んでいく。前回作『コンクリートダイブ』で鍛えたという見事なラチェ(ラチェットレンチ=鉄骨をつなぎ合わせるときにネジを締めたり緩めたりする道具)捌きである。まさに漢(おとこ)の仕事、ガテンな匂いに満ちた班である。一方、宇田川嬢を頭に据えた「天板班」は中二階の足場に載せる板を作っていく。「鉄骨班」とはうってかわってここは6Cのトップ女優たちが勢ぞろいの華やかな班。と思いきや「鉄骨班」に負けない豪快ぶりで電動ノコギリや電気ドリルを軽々と扱い、同じ班の新人役者(男)に細やかな指示だしている。大道具はおとこの仕事という概念はここにはまったく存在しない。特に宇田川美樹嬢の仕事は早くて正確と吉本氏も太鼓判を押すほどのものらしい。そして、今回舞台の編集部で用いる椅子を作成する班、リーダーは春日雄大氏である。既存の椅子を一度分解し、色を塗ったり布で覆ったりして全く違うおしゃれ椅子の出来上がり。ここは新人率が高く人数も少ないせいかみんなで和気あいあいと仕事が進んでいっているように見える。「そんなことないですよ、すぐ色がはげちゃって大変なんですから!」と「椅子班」の斎藤恵嬢。失礼しました。
 今号の見出しは「魅惑の6C舞台美術!漢(おとこ)たちが生み出すもの…」ではあるが、その「漢たち」にはそこらへんの男には太刀打ちできないほどのかっこいい女たちの存在も含めたいと、今回の取材を終えて強く思う次第である。まさに全員が一丸となって造りだす魅惑の舞台美術、今回も我々を魅了してくれることだろう。 

次回予告!
                            乞うご期待!!