私が芝居を始めたばかりの頃です。あるベテラン女優から「私は芝居の幕が下りて、自分の中から演じた役が抜けていくのを感じるのが好き。」という言葉を聞かされたことがあります。当時は意味がわからず、「それって逆なんじゃないか?むしろ役が入ってくるのを感じる方が気持ちいいんじゃないかなあ。」と思っていました。
公演を終え数時間、今なら少しだけその言葉の意味がわかる気がします。
稽古開始から公演を終えるまで、確かに私の中に存在した「尾早稲政伸」という人間。メチャクチャ愚かでメチャクチャ哀しい男。今、このコメントを書いている間も少しずつ自分の体から溶け出しています。「抜けていく」と言うよりも自分の中に「消化(昇華)されていく」という感じでしょうか。ひとつの役を演じることにより、自分の人生にほんの少しだけ厚みが増したような気分を味わっています。
今回、多くの方々の支えで「気持ちで演じる」ということが学べました。4年かかって、やっと踏み出せた役者としての第一歩。これからも少しずつ、着実に進んでいきたいと思います。
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